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『生物多様性とは何か』【生物多様性】を取り巻く国際レベル、地球レベルでの動向を解説。【ホットスポット】の解説が詳しい。

■生物多様性とは何か■ 6月新刊

『はじめに』より
・「築地の魚市場は、地球上の生物多様性を理解するための格好の入り口」…そうだろうか?
水産物の種類は480種といわれる。確かに種類は多いが、その生育環境、生活史、食物連鎖などを含む生態系は決して見えてこない。種類が多い、それが多様性だといっているようで違和感を感じる。

・「アサリ、ハマグリ、同一種でも同じ模様のものがない。これは、どれ一つとして同じ遺伝子の個体はないことの表れ」…そうだろうか? それぞれの環境で模様のつき方、色合いは変わるのではないだろうか?すべてが遺伝子で決まるという思い込みがありはしないだろうか?

・「生物多様性とは何か」この題名では、生物学的な見地からの内容を期待してしまう。
【生物多様性】は、“時”の【キーワード】であるが、生態学者、政治家、メディア、一般人、それぞれで認識差が大きく、意味する内容も大きく異なっているのが現状。日ごろから、ここに問題があると感じていたこともあり、この題名に違和感を感じる。
「生物多様性を取り巻く現状」あるいは「生物多様性保護への国際的キーワード」とでもして取材を前面に出した方が、内容に即しているのではないだろうか。

というのは、【生物多様性】を取り巻く国際的なレベルでの動き、対応は詳しく時系列に沿った解説があり、地球レベルでの動向がわかりやすく、よく理解できる。長く、国際会議などを取材してきた経験が生かされた解説。
【生態系サービス】【里山イニシアティブ】【ホットスポット】【ノーテイクゾーン(NTZ)】【ノーネットロス】など重要なキーワードが丁寧に解説され、【生物多様性】を維持するための方策の具体的な説明があり、これも分かりやすい。

なかでも、 【ホットスポット】の解説が詳しい
【マダガスカル】、8,000万年前に大陸から分離、【バオバブ】【キツネザル】を代表にⅠ万種以上の固有植物、1千種の以上の固有脊椎動物がいる【ホットスポット】中の【ホットスポット】。しかし今、過剰な放牧や農耕が土壌劣化を招き、さらに、大規模なニッケル開発が国策として推進される。
【ニューカレドニア】もニッケル開発の露天掘りが散在する。サンゴ礁とゴンドワナ大陸を起源とする古い特徴を残した貴重な生物が多い。しかし、どちらのニッケル開発も日本を含む世界の企業が開発を進める。
そして紛争、20世紀後半の紛争の80%が生物多様性の【ホットスポット】地域内で起こっているという。
【生物多様性】を維持する際の問題点、いやそれ以上の難問がいろいろ見えてくる

お薦めの1冊ではあるが、題名と『はじめに』の内容に誤解を生じさせる表現があり、この点が残念!
と感じるのは私だけだろうか。


★詳細はこちら↓

生物多様性とは何か



井田徹治(いだ・てつじ)著
2010.06.18.第一刷
岩波新書(新赤版)1257

★★★☆☆ 難易度
★★★★☆ 蘊蓄度
★★★★☆ お勧め指数
★★★☆☆ 保存版
★★★☆☆ 編集、構成
★★★★★ 総合評価
 

◆《感銘・共感・知見の一文》◆

○「絶滅の危機にある種を救う努力をしなけらばならない理由」P64 
『飛行機から1つのリベットが抜け落ちても、即座に影響が出ることはないように、ある種が絶滅し、あるいは個体数が急減しても、近年の種が同様の機能をはたして生態系を支える。ところが、抜け落ちるリベットの数がだんだん多くなってくると、いずれ限界に達し、やがて飛行機は空中でバラバラになって墜落してしまう。次々と絶滅によって種を失っている現在の地球の生態系は、リベットを落としながら飛んでいる飛行機のようなものだ。』
(アメリカ、スタンフォード大学のポール・エーリッヒ博士)

◎【海洋保護区】 ★キーワード=【ノーテイクゾーン(NTZ)】 P143
【海洋保護区】には様々な種類があるが、最も有効なのは一切の採取を禁止する【ノーテイクゾーン(NTZ)】。【海洋保護区】設定が有効な報告がいくつもあり、カリブ海では、主要な5種が、保護区設置後3年で3倍、周囲でも2倍になった。漁ができる範囲が35%減ったにもかかわらず、漁獲量が増えた報告もある。
★【沿岸域に関する学際パートナーシップ(PISCO)】の報告は、各国の【NTZ】124ヵ所で設置前後で、動植物の総量は5.4倍、生物密度は2.6倍。生物の種類も、【NTZ】があると平均21%多いなど、極めて有効なことが確認された。

◎【ノーネットロス】 ★キーワード=【ノーネットロス】 P175
開発に伴う【生態系】【生物多様性】の損失を実質ゼロにすることを目指し、1950年代後半に、アメリカの法体系に組み込まれた。開発により失われたものと同等の【生態系】を周辺に復元、再生することにより、生態系の損失防ぐことが目的。この義務付けにより、各地で事業者の出費による【自然生態系】の再生、復元が進み、それを評価する手法も進んだ。
★【ノーネットロス】の考え方は、世界銀行などの国際機関や援助機関の融資政策にも取り入れられている。

◎【生物多様性条約】P180
【バイオダイバーシティ(生物多様性)】エドワード・ウィルソンの序文

『生命の形の多様さ、それはこの惑星での最大の脅威だ。生命圏は様々な形の命が複雑に縫い合わされたタペストリーのようなものである。10億年以上にわたって多様な形の生命を育んできた環境を我々が急激に変え、破壊していることに対する緊急の警告を伝えたい』

この本は、1986年、著名な生物学者、環境学者60名が参加した【生物多様性に関するナショナルフォーラム】の記録。【外来種】の悪影響、【生物多様性】の持つ経済的な価値が語られ、熱帯林の破壊により【生物多様性】が急激に失われているデータが紹介された。
★発展途上国の【生物多様性保全】と【経済成長】との関係が抱える問題が浮上。
1987年、【国際環境計画(UNEP)】は、【生物多様性保全】のための国際条約づくりを目指すことを決めた。

◆《ポイントひろい読み BEST 5》◆

○【生態系サービス】 ★キーワード=【生態系サービス】 P15
ミツバチの受粉や、ハゲワシの廃棄物処理のように、生物や生態系が人間にもたらしてくれる自然の恵みのことを、科学者は【生態系サービス】と名付けた。“サービス”とは無形の財を示す経済学の言葉で、【生物多様性問題】を考える際の重要なキーワードの一つ。
【生物多様性】が人間にとって大切なのは、人間に提供してくれる多様な自然の恵み、つまり【生態系サービス】があるからにほかならない。
(人間にとって直接的な恵みや利益があるから【生物多様性】が必要と言っている。しかし、間接的な働きや、目に見えない部分で、“サービス”がなされているかどうか知りえない。この解明されていない部分の方が多いのではないだろうか。)
○「【生態系サービス】の変化」 ★キーワード=【ミレニアム生態系アセスメント(MA)】 P70
【MA】は24種の【生態系サービス】の現状を分析。ほぼ60%の【生態系サービス】が劣化し非持続的に利用されていると指摘。特に天然の漁業資源と淡水資源は需要を満たすことができないレベルにまで低下し、将来のニーズを満たすことが望めないと評価。
★現在の経済システムの中では評価されない“市場価値のない”【生態系サービス】が、傷つけられやすい。

○【レッドリスト】 ★キーワード=【国際自然保護連合(IUCN)】 P44
世界の【絶滅危惧種】に関する、最も包括的で権威ある分析とされるのが、【国際自然保護連合(IUCN)】による評価。1948年に設立された国際的な自然保護機関、現在84カ国より111の政府機関、484の非政府組織(NGO)、35の団体が会員。日本も1995年よりメンバーとなる。7,500人の科学者が参加する【種の保存委員会】があり、120の専門家グループに分かれ調査研究、その情報をもとに【レッドリスト】を発表。
◆【絶滅】(EX):すでに絶滅したと考えられる種
◆【野生絶滅】(EW):飼育、栽培下でのみ存続している種
◆【絶滅危惧ⅠA類】(CR):ごく近い将来、野生での絶滅の危険性がきわめて高い種
◆【絶滅危惧ⅠB類】(EN):ⅠAほどではないが、近い将来、野生での絶滅の危険性が高い種
◆【絶滅危惧Ⅱ類】(VU):絶滅の危険が増大している種
◆【準絶滅危惧種】(NT):現時点では絶滅危険度は小さいが、生育条件の変化によっては【絶滅危惧】に移行する可能性のある種
◆【軽度懸念】(LC):上記のいずれにも該当しない種
◆【情報不足】(DD):評価するだけの情報が不足している種

◎【ミレニアム生態系アセスメント(MA)】 ★キーワード=【ミレニアム生態系アセスメント(MA)】 P66
アメリカの環境シンクタンク、世界資源研究所(WRI)の発案に国連が賛同し、2001年から95カ国1400人の専門家が参加したプロジェクト。「20世紀の生態系の変化を振り返り、今後50年の生態系の変化と人間生活への影響の予測を目的」【IUCN】の【レッドリスト】が、【種の多様性】を主に扱うのに対し、森林、農地、草原、淡水、沿岸域の5つの【生態系】に着目して検討。

○【里山イニシアティブ】 ★キーワード=【生物多様性条約締約国会議】【里山イニシアティブ】 P89
【生物多様性】を保全し、人と自然との関係を見直そうとする機運が高まる中で、里山環境の保護や再生の重要性が指摘される。このような生態系は、日本以外にも、フランス、ドイツ、東南アジア、アフリカなど世界各地に存在。日本政府は、2010年秋に名古屋で開催する【生物多様性条約締約国会議】に向け、里山をヒントに、人間と【生物多様性】との新たな関係の構築を目指す【里山イニシアティブ】を提唱。

○【アグロフォレストリー(農林複合経営)】 ★キーワード=【アグロフォレストリー】 P153
森林を大規模に伐採し、単一作物を多量に生産する【モノカルチャー】的プランテーションは、病虫害の被害を受けると甚大で、持続的経営が困難となる。在来の昆虫などもいなくなり、【生態系サービス】も失われる。【アグロフォレストリー】は、森林がもつ多彩な【生態系サービス】を活用、【生物多様性】を保護し、地域の発展につなげる手法として注目される。

◆《チェックポイント BEST 3》◆
ここは少し上級者編、ひろい読み編が気に入ったら次はこちらで、チョット深読みしてはいかがでしょうか。

◎【ホットスポット】 ★キーワード=【生物多様性のホットスポット】 P92
地球上に【生物多様性のホットスポット】と呼ばれる場所がある。
『優先的に【生物多様性保全】の努力を傾ける場所を特定しよう』との考えから【ホットスポット】の概念を提案。(スタンフォード大学のN.マイアーズ博士)
2000年に25ヵ所を選定、このなかでも固有種の多さや植生面積の減少率を基に、さらに8ヵ所を選定。
(マダガスカル/フィリピン/スンダランド/ブラジル大西洋岸の森/カリブ海諸島/インド・ビルマ/西ガーツ・スリランカ/東アフリカ沿岸体)
2005年には、新たに日本を含む9ヵ所が追加された。日本が選ばれたのは、固有の植物種が多いことが理由の一つ。
★合計34ヵ所の面積合計は、地表面積の2.3%に過ぎないが、この【ホットスポット】に、絶滅が危惧される哺乳類、鳥類、両生類の75%が生息、すべての維管束植物の50%と陸上脊椎動物の42%がこの【ホットスポット】だけに生息している。
★20世紀後半の紛争や地域戦争の80%が、この【ホットスポット】の中で起こっている。

◎「日本の生物の多様性」P129
◆植物
日本に自生する植物5600種の1/3を超える1950種が【固有種】、この中に【絶滅危惧種】が多い。
国内に残された原生植生は20%。
◆哺乳類
94種のうち1/2の46種が【固有種】。
【アマミノクロウサギ】【ケナガネズミ】【サドモグラ】【サドトガリネズミ】など。
◆両生類
50種のうち88%の44種が【固有種】
【ホルストガエル】【リュウキュウアマガエル】【イシカワガエル】【サンショウウオ類】など。
★【オオサンショウウオ】は、淡水生態系の頂上に位置する生物で、日本の豊かな【生物多様性】を象徴する種。

◎「大きな問題【利益配分】」P187
遺伝資源により得られる利益の公平な配分が解決できていないこと。医薬品、化学物質の中に、生物由来のものが多い。先住民の知識であったり、地域の土壌微生物であったりするが還元されていないところに問題がある。
◆【ニーム】(インドセンダン)アフリカ原産
旱魃に強く成長が早い。果実の抽出物は天然の農薬としての利用が注目される。(インドでは古くから薬、歯磨き、虫よけに利用)もとはアフリカ原産のため、アフリカの市民団体より批判。
◆【イモ貝から鎮痛剤】フィリピン産出
アメリカとフィリピンの研究機関が商品化し、大きな利益を上げたが、地元漁民への還元はない。
◆【エリスロマイシン】フィリピンの土壌微生物
“菌の代謝物質”から分離した抗生物質。製薬会社は莫大な利益を得たが、発見した科学者、フィリピン政府、地元の町には利益の還元はない。
◆【ニチニチソウから抗がん剤】マダガスカル原産
先住民が医薬品とし利用してきた。フランスの製薬会社が、抗がん作用のあることを発見し【ビノレルビン】として開発。
◆【ステビア】パラグアイ原産のキク科植物
天然甘味料として、広く利用される。この特許をアメリカの企業が申請し話題となる。膨大な開発費、手間と時間をかけ商品化した結果が“特許”として認められるのは当然ではあるが、産出国への還元がないことが問題。
★【遺伝資源】の原産国は発展途上国に多いが、海外の企業がそこから大きな利益を得ても、地元に還元されていないところが問題。


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日頃より、身近な科学に興味があり、新書などいろいろ読み漁り、また読み耽っています。
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