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『ヒマラヤの青いケシ』大陸移動から気候変動、発見の歴史、種の分類まで【青いケシ】の話題を凝縮。約50種の特徴と写真も掲載された貴重な一冊。

■ヒマラヤの青いケシ■


前回の『チベットに咲く青いケシ』に関連した書籍の紹介です。

進化の筋道に沿って分類体系を確立することに関心を持つ著者が『ヒマラヤの青いケシ』(メコノプシス属)の多様性と分類を対象に書下ろした貴重な一冊。

大陸移動など気球規模でのヒマラヤ生成から気候変動なども盛り込まれ、単に【青いケシ】の分類体系を解説した書とは違い大きなスケールでヒマラヤの形成とともに青いケシを捉えている。

意外なことに、メコノプシスの最初の命名は、ヨーロッパの野生種【Meconopsis cambrica】。黄色の花をつけるカンブリカ種はイギリスを中心に西ヨーロッパに分布している。そして、この両種の隔離分布と、属レベルでの分類の違いについても解説がある。

【青いケシ】を通して、大陸移動から気候変動、種の分類、また、ヒマラヤ・中国奥地の解放など概略が理解しやすい。
【青いケシ】にまつわる話題が凝縮され、この植物に興味ある方必読の一冊です!



★詳細はこちら↓

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【送料無料】ヒマラヤの青いケシ
価格:3,570円(税込、送料別)

大場秀章(おおば・ひであき)著
2006.02.20.初版第一刷
山と渓谷社




★★★★☆ 難易度
★★★★☆ 蘊蓄度
★★★★★ お勧め指数
★★★★★ 保存版
★★★★★ 編集、構成
★★★★★ 総合評価

 



◆ 感銘・共感・知見の一文 ◆

◎【メコノプシス:Meconopsis】 ★Keyword=【Meconopsis】【M. cambrica】P14
・ケシ科の植物で、ヒマラヤの【青いケシ】の仲間に対する属名。「mecon:ケシ」「opsis:似ている」という意味のギリシャ語。
・メコノプシスの最初の命名は、意外なことにヨーロッパの野生種【Meconopsis cambrica】。西ヨーロッパの標高600mほどの湿った日陰地に生育する。花は黄色で橙色の変種・園芸品種もあり、多くの庭園に植えられている。そこからさらに逸出し野生化したものも多い。
(著者はこの種は分布・属性ともに他の【メコノプシス属】とは異なるため【ケシ属】に含めた方が適切…とある)
・1753年、リンネにより【Papaver cambricum】(パパウェル・カンブリクム)が最初に与えられた学名。(種小名はウェールズ地方を指す)
・1814年、A.ヴィジュイエにより雌しべの形態的違いから【Meconopsis属】を設けることになる。
・1855年、J.D.フッカーにより代表的な【Meconopsis horridula】が「インド植物誌」に記載される。
・中国名は「緑絨蒿」。すべての植物に中国名がつけられている。

◎「ヒマラヤ奥地生成の歴史」 ★Keyword=【植物相】P18
・ユーラシア大陸南部は、ゴンドワナ大陸から分裂したインド亜大陸の衝突により押し上げられ、
ヒマラヤ、チベット高原、横断山脈が形成される。中生代末期から今なお続く大陸移動によりもたらされた地形である。
(ゴンドワナの名の由来はインド半島の一民族の名前、押しあげられた結果ネパールなどではアンモナイトの化石が産出する。)
・海面から5,000m以上も隆起したため、大気の循環にも影響。夏にインド洋で発生する熱帯性気団モンスーンの北上を拒み、冬にシベリア気団の南下を拒み東西方向へと流れを変える。影響は日本にも及び、日本海側に大雪をもたらしている。
・特にチベット高原は、標高・降水量の違いにより多様な環境が生じ、【植物相】も多様で豊かなものになっている。湿潤地と乾燥地がモザイク状に出現するチベットの【植物相】はヒマラヤに比べ変化と多様性に富んだものとなる。
★ヒマラヤ・中国奥地の植物の歴史
・氷河期に【植物相】は壊滅しているため、現在の間氷期の【植物相】は氷河期以前とは別の種により構成されている。(花粉化石・植物化石により証明されている)
・現在、東ヒマラヤはモンスーンの影響が長く及び夏も雨が多く湿潤、西ヒマラヤでは降水期・降水量が少なく乾燥する。

◎「【メコノプシス】が生育する高山帯」 ★Keyword=【森林限界】【雪線】【高山帯】P22 
・植物学では【森林限界】と【雪線】の間の地帯を【高山帯】と呼ぶ。
・【メコノプシス属】の植物はこの【高山帯】に生育。
★ヨーロッパの【カンブリア種】は平地に生育するためこの点が異なる。
★【メコノプシス】の生育地は、中国の辺境である雲南省、四川省、チベットであり、1950年以前、中国としても充分な資料はなかった。
■用語■
雪線
万年雪の始まる標高を結んだ線のことで、この線より上で植物は生育できない。
森林限界
森林が分布する上限の地点。これより上は高山の【お花畑】が広がる。
樹林限界(高木限界)
森林を形成する高木が姿を消す地点。



◆ ポイントひろい読み BEST 5 ◆

○「ヒマラヤ・中国奥地の解放」P6
・ヒマラヤ奥地の秘境ともいわれた地の植物に一般の人々が接することができるようになったのは、最近の20年ほどのこと。
・著者が最初に触れる機会となったのは昭和36年(1961年)の「日本植物の祖先を探るシッキム・ヒマラヤ展」。
【Meconopsis paniculata】と呼ばれる淡い黄色のメコノプシス属との最初の出会いとなる。

○「【青いケシ】M.ホリドュラに見る著者の想い」P10
・【青いケシ】の花の色は晴天の空を模していて、雲間の青空と思って昆虫が集まるのではないか…。
・雨の日には横向きの花が下向きに変わる不思議なふるまいを発見したとある。下向きの花は昆虫に雨宿りの場を提供。
(雨の日に昆虫は雲間の青空と感じているのではないか。このような植物を「雨傘植物」として研究対象にしたいとある)

○「ヒマラヤ植物が栽培できるイギリスの気候」P13
・寒冷地であるイギリスでは、【青いケシ】の生育に気候が合うため早くから栽培されている。
・イギリス園芸協会の記事にも登場し、愛好家、コレクターなどファンも多い。
☆高温多湿の日本では栽培が難しいため【青いケシ】の知名度は低かったが、1990年の花博でブータン館に【青いケシ】が展示され、一躍人気となる。

○「ヨーロッパに存在する【メコノプシス】」P26
・ヨーロッパの【カンブリア種】とヒマラヤの【メコノプシス属】の間は【メコノプシス属】が全く見られない空白地帯。なぜこれほど離れた隔離分布となるのだろうか。(分布地が色分けされた地図が掲載されている)
・形態的な違いは【カンブリア種】に剛毛がないこと。植物学では種により“毛”は一定しているため分類上の重要な注目点である。
★ヨーロッパのメコノプシスとヒマラヤ・中国奥地のメコノプシスでは“属”レベルの違いがあることを認識する必要がある…と著者。

◎「ネパールの高山帯の植物」P25
・ヒマラヤ中央に位置する標高4,000以上の地域には1,223種317属の植物が知られている。この半数の595種は僅かに29属に分類される。
・種の多い順に、ユキノシタ/シオガマギク/サクラソウ/リンドウ/トウヒレン/エンゴサク/スゲ/イワベンケイ/トリカブト/イチゴツナギ/イグサ/キジムシロ/ヤナギ/ノミノツヅリ/ヒゲハリスゲなどで、【メコノプシス】と【クレマントディウム】(キク科)以外は日本や北半球のほかの地域にも生育している。
・ヒマラヤや中国奥地でも日本人に馴染みの植物が多いことがわかる。
★29属の高山に生育する種の61%が、ネパール・ヒマラヤの固有種。



◆ チェックポイント ◆

◎「プラントハンター黄金期」P56
・1843^1950年の100年ほどの時期にヒマラヤ、チベット、中国奥地で植物学者やプラントハンターが活躍した。
・イギリスは世界各地に植民地を持ち、プラントハンターの活動に影響力を持っていた時期。
・【押し葉標本】としてヨーロッパへ渡り、分類学の標本室へ、種子は植物園や種苗商、コレクターの手へ渡る。標高3,000mを超える高山の植物は、イギリスを含むヨーロッパ北部の戸外で生育できることから庭園植物としてもてはやされた。
(モクレンの属、シャクナゲ属、メコノプシス属、プリムラ属、ユリ属など)
・ジョセフ・ダルトン・フッカー、ロバート・フォーチュン(ロンドン園芸協会から派遣された園芸家)などにより多くの植物が持ち込まれた。

○「宣教師による植物調査」P60 
・1980年代には2800人もの宣教師が中国で布教活動をしていたが、このなかの何人かは植物採集と標本作りに時間を割いていた。
・横断山脈で活躍した A.ダヴィット神父は【ハンカチノキ】と【パンダ】を発見している。
・雲南省で活躍した P.J.デラヴェ神父は20万点にのぼる標本を採取した。そこには1500種の新しい植物が含まれていたといわれている。
雲南省北西部、四川省南西部からチベット東部に至る横断山脈地帯は、植物の多様性が飛びぬけて高い世界有数のホット・スポット。

○「カルカッタ植物園」P66
・1958年以降、植民地政府による植物調査が行われその基地としての機能を果たしたのが『王立カルカッタ植物園』。
・当時、育種技術は未熟なため、新しい植物は世界各地に魅力ある植物を追い求め探す必要があった。

○「【メコノプシス】に縁の植物学者D.プレイン」P67
・デイヴィット・プレイン卿は1958年生まれのイギリスの植物学者。1887^98年、王立カルカッタ植物園で植物標本室管理官として、インド地方の植物研究に携わる。
・M.ホリドュラ種の変異が広いことを当時から指摘。茎の先に1花をつける種、多数を総状花序としてつける種もある。ヒマラヤに限らず雲南省やチッベットでも多様化していることを指摘。
・1905^22年、帰国後キュー植物園園長の要職を務める。
・1904年、中国奥地で【メコノプシス】の新種が次々発見され、これらの研究にも携わる。



◇◇◇ Meconopsis ◇◇◇

チベットのラサ郊外で『青いケシ』に出逢うまで、これほどの種があるとは知らなかった。ガンデン寺の巡礼路で撮影してきた写真をもとに検索したが正式名にたどりつけない。頼りの『ヒマラヤ植物大図鑑』でも数々の『青いケシ』が掲載されているが、これらのどれとも少し形態が違う。地域により変異があること、自然交配により交雑するため「Meconosis sp.」(メコノプシス属の一種)とするしかないことがわかった。

それにしても『青いケシ』にこれだけの歴史があったことに驚き、また感心する。植民地時代のこと、宣教師が植物調査をしていたこと、プラントハンターが重要な存在であったことなど改めて知ることになった。カルカッタ植物園にも植民地時代の歴史が色濃く残る。今ほど交配や品種改良の技術がなかった時代に、未知の世界へ魅力的な植物を探査する時代背景までもが浮かび上がる。

近くて遠い存在のチベット、そして中国奥地。現地では有用植物の知識はいろいろあるが、『青いケシ』など利用されない植物は興味ももたれない存在。現地の人にとっては、日ごろ目にしていることもあり、特別の花でもない。旅行者の日本人が『青いケシ』を特別視する方が理解し難く映る。チベットでは、そんな存在の『青いケシ』である。



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