■昆虫未来学■12月新刊副題に『4億年の知恵に学ぶ』とある。話題豊富で昆虫の見方が変わる!虫けらなどと呼べない知恵の数々。4億年前に誕生して以来、繁栄を続ける昆虫の知恵を探る。なかでも【バイオ・ミミクリー】(生物から学ぶ科学)の昆虫バージョンは話題が豊富でとても面白い。
人間にとって【害虫】であっても、生態系のなかでは一役を担う【益虫】となる。【害虫駆除】を計るのではなく、害になるレベルにまで発生させない管理、共存を前提とした【害虫管理】が肝要である。目の前の【害虫】を駆除することと、その種全体を駆除、撲滅を図ることとは次元が異なると強調する著者。
身近な存在でありながら、実のところ昆虫の世界は分からないことがまだまだ多い。
イモムシがどうやってチョウへ変身するのか?…
蛹の中で何が起きているのか?…
実はこれ全然解明できていない!専門家さえ解明できていない。種明かしができないマジック!
しかし、解明され始めている部分に何とも驚きの事実がある。
なかでもお薦めのタイトルは、
□ 群がる理由
□ 昆虫の性を操る細菌:ボルバキア
□ ナラ枯現象話題が豊富で読み応え充分。お薦めの一冊です。
★詳細はこちら↓ | | 藤崎憲治(ふじさき・けんじ)著 2010.12.20. 新潮選書
★★★☆☆ 難易度 ★★★★★ 蘊蓄度 ★★★★★ お勧め指数 ★★★★☆ 保存版 ★★★★★ 編集、構成 ★★★★★ 総合評価 |
◆ 感銘・共感・知見の一文 ◆◎「【昆虫】の世界の物理作用」P47
・
運動エネルギーは長さの5乗に比例するため、長さが1/10になると、エネルギーは、1/100,000。高い木から落ちても平気でいるし、アメンボは表面張力で水面を滑ることができる。
○「群がる理由」P73
◇ 【チャドクガ】【マツノハバチ】
集団のサイズを小さくすると、死んでしまう個体が増えてくる。噛む力の弱い個体は、集団の中にいることで、噛む力の強い個体が食害したところを食べ成長できる。
★どちらの昆虫も葉の堅さに対する対抗戦略と解釈することができる。
◇ 【テントウムシダマシ(パナマ)】
赤色の甲虫が乾期に大集団をつくり休眠する。集団サイズを変えて調べると、大きな集団ほど水分の消失量が少ないことが分かる。集団が大きいほど乾燥しにくく、代謝速度も遅くなることが分かる。
◆ 【真社会性】3つの体制
1.同種、複数の個体が協同し養育(卵・幼虫・蛹・若い成虫)
2.カースト分化し、生殖をする個体、生殖しない個体(ワーカー・兵隊)から成立
3.2世代以上の成虫個体から成立
・ハチ目【アリ】【ハチ】、シロアリ目、カメムシ目【アブラムシ】、アザミウマ目の一部でそれぞれ独自に進化。
・なかでも【ミツバチ】は高度の社会性をもち、齢に応じた分業体制を発達させた。
(羽化すると⇒ 巣の掃除⇒ 幼虫の養育⇒ 花粉・蜜の採餌など)
◎「【昆虫】の性を操る【細胞内共生細菌:ボルバキア】」 ★Keyword=【ボルバキア】 P117
★★★ 昆虫学史上の大発見:
節足動物なかでも昆虫に高率で感染し、宿主の生殖を操る“菌”。
◆ 《さまざまな作用》
・精巣、卵巣に感染。感染するとオスは死に、メスは生き残る。
・感染したオスのメス化を誘導しメスにしてしまう。
・寄生バチ、アザミウマ類では、感染したメスは【単為生殖】ができるようになる。
・感染したオスと感染していないメスが交尾すると、オスの精子のボルバキア由来の毒素が作用し子孫を残せなくなる。
などなど【昆虫】の性を支配するような存在であることが知られてきた。
◎【ナラ枯現象】 ★Keyword=【カシノナガキクイムシ】 P138
・日本海側のブナ科の樹木が集団枯死にしたことに端を発し、各地で被害が出ている。明治神宮でも大きな【クヌギ】があっという間に枯れてしまった。
・2009年までに23都府県で被害の報告があり、著者の住まいのある京都各地でも拡大していると記されている。
◆ 原因と枯死のメカニズム
1.体長5mmほどの【カシノナガキクイムシ】が樹幹にいくつも穴をあけることに始まる。
2.その時【カシナガキクイムシ】の持ち込んだ菌類が樹に感染する。
3.菌類の中には、樹を枯死させる菌も含まれるため、樹は抵抗反応を起こす。
4.この抵抗反応は過剰ともみられ、根からの水分吸収を妨げることになる。
◇ 【カシノナガキクイムシ】は、古くからの在来昆虫で、本来弱った樹に寄生する。
大径木に集団で寄生することが確認されている。(小径木には来ないこと、集合フェロモンを分泌し集団で攻撃することが確認された)
◆ 個体数急増と、健全樹にも寄生するようになった原因
1.地球温暖化説
・昆虫側から⇒標高の低い暖かな地域に生息していたが、温暖化で標高の高い地域、あるいは高緯度地域に進出。
・樹木側から⇒生育地が温暖化したため、適温以上の環境下で衰弱したことが被害を促進。
2.薪炭林の放棄説
・放置されてきた薪炭林が、繁殖場所として好条件になってきたとする説。
★枯死は、生態系に影響を及ぼし、ドングリを餌とするクマなどが人里に出没する一因となっている可能性も指摘される。
◆ ポイントひろい読み BEST 5 ◆○「【昆虫】・【害虫】」◆ 【昆虫】P9
『昆』:「数が多い意」
『虫』:【本草学】では「人類・獣類・鳥類・魚介類以外の小動物の総称」。分類学とは違う動物群を指している。
『Insect』(昆虫):ラテン語のinsectum(切込まれた動物)に由来。
『Entomology』(昆虫学):ギリシャ語のentomon(切込まれた動物)に由来。
◆ 【害虫】
害虫の概念は明治以降。江戸時代は台風や地震と同じ天災による被害と同等にとらえれれていた。
・目の前の【害虫】を駆除することと、その種全体を駆除、撲滅を図ることとは次元が異なると著者。
★ヒトにとって【害虫】であっても、生態系のなかでは一役を担う【益虫】となる。【害虫駆除】を計るのではなく、害になるレベルにまで発生させない管理、共存を前提とした【害虫管理】が肝要である。
○「誕生は4億年前」 ★Keyword=【共進化】 P18
・古生代デボン紀(4.1^3.6億年前)の地層から無翅の【トビムシ】【イシノミ】が出土している。このため、昆虫の起源はシルル紀(4.4^4.1億年前)とみられる。維管束植物が上陸した時期でもあり昆虫の起源と重なる。
・石炭紀(3.6^2.8億年前)後期:
有翅昆虫が出現 。
・ペルム紀(2.8^2.4億年前)に著しく【適応放散】し、現存する『目』が出揃う。
・白亜紀(1.4^0.65億年前):
【被子植物】が出現し繁栄に期を合わせ昆虫類が種分化した。★【共進化】
・第3紀(6500^160万年前):現存する昆虫の『科』は分化していたとみられる。
◎「【カンブリアの爆発】の原因」P22
・先カンブリア時代は、霧により遮られていたが、太陽光が強まるとともに視界が開け
“目”をもつ動物が出現したことに起因する。
| | ■ 『眼の誕生』 アンドリュー・パーカー著 2006年
≪この本は、感激の一冊≫ ≪三葉虫の“眼”の進化から【カンブリア爆発】を読み解く≫
|
・
地球が明るくなった原因:太陽系が銀河の渦巻き状に伸びる4本の腕(分子ガス、塵、星が密集する部分)から離れた時期とする説がある。
・地球が明るくなり ⇒動物の目が進化 ⇒生物の爆発的多様化したとする説。(捕食する側とされる側での進化的軍拡競争に起因)
◎「【石炭紀の適応放散】」 ★Keyword=【開放血管系】 P23
・石炭紀の地層から多くの昆虫目の化石が発見される。その理由として、
1)
“翅”を手に入れたこと2)
大気中の酸素濃度が上昇したことが考えられる。“翅”で飛ぶためには多くの酸素が不可欠であり、酸素が取り込みやすい【開放血管系】の昆虫に有利にはたらいた。
★白亜紀も酸素濃度が高く、“翅”をもつ昆虫は、さらなる進出をはたす。★【翼竜】【鳥類】の祖先もこの時期に出現。
★★ 【被子植物】と“翅”をもつ【昆虫】の出現時期が重なることは重要なポイント!
★★ 『飛べること』は著しい【適応放散】を可能にしたようで、【昆虫】同様【鳥類】【コウモリ類】の多様性も秀でている。
【鳥類】9,000種、【コウモリ】約1,000種(哺乳類の1/4)の存在が裏付けている。
◎「【昆虫】の目」 ★Keyword=【ポリネーター】(花粉媒介者) P30
・【ハエ】は(300ヘルツ/秒)の感知ができる。【ヒト】は(30ヘルツ/秒)。≪蛍光灯はチラチラして見えていることになる≫
・【ポリネーター】(花粉媒介者)の色覚は、【UV-A】の紫外線を認識。植物の花は、この紫外線を利用し【ポリネーター】を誘っている。
★紫外線下で花を撮影すると、花粉と葯が蛍光発色するのは有害な紫外線から遺伝子を守るとともに、昆虫を誘引しているためと考えられる。
★≪青、紫系の花の撮影をすると、実物の色と撮込まれた写真の色に差が生じるのも、カメラの感知範囲と紫外線の存在が原因か?≫
◆ チェックポイント ◆◎「【昆虫】と【顕花植物】の【共進化】」P25
◇ 【ポリネーター】(花粉媒介者)と植物の【共進化】
特に発達したのがランの仲間の【オリフィス類】で、花の形はメスのハチやアブの形をし、さらにフェロモンまで発散してオスを誘引する。
◇ 食害に対する防衛戦略
・【被子植物】にとり【昆虫】は【ポリネーター】としての存在とともに【食害】をする加害者でもある。
・棘をもち、表皮を硬くし、柔毛・粘着毛を備え、食害の防衛を進化させた。さらに有害物質による科学的防衛システムを手に入れる。
◇ 【ブナ】と【ブナアオシャチホコ】
・10年ほどの周期で【ブナアオシャチホコ】が大発生する。⇒【ブナ】は翌年、葉の【タンニン】をふやす。⇒
この葉を食べた幼虫は発育不良を起こし、大発生は終息する。
◇ さらなる軍拡防衛戦略
☆(植物)食害されると、その周辺の【フェノール】を有毒作用のある【キノン】へ変化させる。
☆(昆虫)この【キノン】を唾液中の酵素で酸化し無毒化する。
◇ 捕食昆虫の天敵を誘引する植物
・食害を受けると揮発成分を放出。この成分が【捕食者】を誘引し、捕食昆虫を攻撃することで被害を抑える植物がある。
・トウモロコシやタバコはチョウの幼虫に傷つけられると、青臭い香りに加え天敵の【寄生バチ】を誘引する香りを放出する。
★【植物】【捕食者】【天敵】の三者が関係する軍拡防衛戦略となる。
○「【完全変態】の有利性」 ★Keyword=【完全変態】 P46
・種数の多い昆虫目の上位4種が【完全変態】であることも有利な裏付。成長のステージにより、棲息場所、食物が異なるものが多く、「生息環境悪化のリスクを分散できること」がその理由と解説している。
・【幼若ホルモン】【脱皮ホルモン】の2つのホルモンの相互作用でコントロールされる。
【脱皮ホルモン】のエクジステロイドの作用時に【幼若ホルモン】があると【幼虫】から【幼虫】へ脱皮、【幼若ホルモン】が少ないと【幼虫】から【蛹】へ、エクジステロイドだけだと【蛹】は【成虫】へ変態する。
○【農薬】 ★Keyword=【誘導多発生=リサージェンス】【モノカルチャー】 P144
◇《旧ソ連:キルギス・ステップでの現象》
1.手つかずの草原時には、330種の昆虫が生息。
2.開墾して麦畑にすると、142種(57%減)
しかし個体数の総数は倍増している。なかでも増えた個体の大部分は少数の種が占めていることが特徴。
★特定の種が害虫化したということであり、生態系の単純化をもたらした【モノカルチャー】を基本とする農業が【自然破壊】といえる。
■用語■
■【誘導多発生=リサージェンス】
・殺虫剤を散布すると、生態系に影響を及ぼし、かえって害虫を増やしてしまう現象。
■【生態的誘導多発生】
・天敵により抑制されていた害虫が、天敵が殺虫剤などで一掃されると、急激に増えてしまう現象。
■【生理的誘導多発生】
・有機リン剤などで作物のC/N比(炭素と窒素の比率)が変化し害虫の餌になりやすくしてしまったり、殺虫剤が害虫のホルモンに作用し生殖能力を高めてしまう現象。
◎【バイオミミクリー】P195~
・【バイオ】:生物、生命、【ミミクリー】:真似る
・【バイオミミクリー】:『生物の天分を意識的に見習う、自然からインスピレーションを得た技術革新』
◇【シロアリ】
・シロアリの塚の内部は、外気が0^40℃に変化しても、30℃程度に保たれる仕組みを見習う。
◇【モルフォチョウ】 ★Keyword=【構造色】
・0.1ミリほどの鱗粉は細い筋があり、青色の光の波長の1/2間隔で棚のような構造物が並ぶ。干渉により青色光だけが反射される。そのもの自体に色があるのではなく、光の波長以下の微細構造による発色現象。
【構造色】と呼ばれ、カード、紙幣などにも使われている。
◇【タマムシ】
・これも【構造色】だが、透明な20層にも及ぶ多層膜によるもので、CDの記録面が光る様子はこれと同じ。
◇【スズメバチ】
・親の腹部は極端にくびれるため液体しか通らない。★敵に対して毒針を自在に使えるよう腹柄(ふくへい)を細くした結果と思われる。親は餌を肉団子状にして幼虫に与えると、幼虫はこれをアミノ酸液にして親へ口渡す。親も子供を頼りに生きている。このアミノ酸混合物は、燃焼しにくい脂肪を燃やす作用があり、スポーツドリンクに応用されている。
◇【ヤドクガエル】
・南米に生息し、インディオが矢毒に利用した猛毒【バトラコトキシン】をもつ色鮮やかなカエル。この毒の起源は、カエルの餌である小昆虫類、アリ、ヤスデ、テントウムシなど、さらに【ササラダニ類】がそのまた起源であることが分かる。
★国内の【ササラダニ類】からも多くのアルカロイドが検出された。未知のアルカロイドも多く、今後の医療に貢献すると期待される。
★このほか、生物に学んだ技術が数多く紹介されている。なかでも身近なものに意外な生物から学んだ“技術”があり興味が尽きない。
是非ご一読ください。
◆□◆□◆ 雑 感 ◆□◆□◆【細胞内共生細菌:ボルバキア】の記事がある。
かなり前に、「昆虫に共生する微生物」に的を絞った本を読み、驚きとともに感銘を受けたことを思い出す。
■『昆虫を操るバクテリア』石川 統著(1994.09.22.平凡社:シリーズ共生の生態学)
現在最も繁栄している生物といわれる【昆虫】。この要因の一つに、どんな有機物でも摂取し利用できることがある。この食性を支えているのが【共生微生物】で、消化管、後腸に宿主のもたない代謝経路をもち込むことで、どんな食物でも宿主が摂り込める形に分解している。【シロアリ】【ゴキブリ】が身近な代表。
もう一つ「昆虫学史上の大発見」と著者が紹介する細胞内共生細菌【ボルバキア】がある。
宿主昆虫の性を操るとなると、主体は共生細菌のようにも捉えられてしまう。
【昆虫】の性をコントロールしている事例が紹介されている。
ヒトに直接影響を及ぼすこともないので良く知られていない共生の世界。
昆虫がベクター(媒介)となる感染症の例として
・マラリア原虫(ハマダラカ)、
・アフリカ睡眠病:トリパノソーマ・ブルセイ(ツエツエバエ)、
・シャガス病:トリパノソーマ・クルジィ(オオサシガメ)
などは、ヒトに感染する原虫や鞭毛虫。直接の被害を受けることもあるのでよく知られた共生の世界。
著者は『飛べること』は著しい【適応放散】を可能にし、【昆虫】同様【鳥類】【コウモリ類】の多様性に言及している。ということは、“翅”をもつ昆虫に寄生、共生する微生物は、移動、拡散とともに【適応放散】の機会が増える。
こうなると、【昆虫】【共生微生物】どちらが主体?なのか分からなくなる。そもそも、主体などはじめからないのかもしれない。
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