『土壌微生物の基礎知識』土壌・微生物・植物の関係がよくわかる。見開ページ毎テーマ別、イラストが多く馴染みにくい土壌の基礎が理解できる秀逸の解説書。
■土壌微生物の基礎知識■
土壌の知識となると、馴染みにくく小難しい感じがするが、読みやすく端的にまとめられ重宝な一冊。イラスト、表なども多く解りやすい。何よりも見開ページごとにテーマ別になっているところが一番のポイント。私にとっても土壌関係は、取っ付き難い分野。しかしこの一冊は、かなり役立った。というより助けてもらった。土壌知識の糸口をつかめたテキスト的存在として今も書棚に並んでいる。
発行からからかなり時間が経つが、いまだに読み返す便利な辞典のような存在。菌根菌などは今ではよく知られてきているが、発行当時は“目から鱗”の解説だったことを思い出す。
今ではまり見かけない水田の“荒起こし”“代かき(しろかき)”により土壌中の菌が死滅し【窒素】の放出が促進されイネに摂り込まれることなどは、古来からの知恵があり、なるほどとよく理解できる。
★詳細はこちら↓
◆ 感銘・共感・知見の一文 ◆
◎「【土壌微生物】の存在量」 ★Keyword=【菌体窒素】 P24
・普通の畑の土壌生物量:平均 700㎏/アール(カビ:70~75%、細菌:20~25%、土壌動物<5%)。700㎏の内訳は、水分:560㎏(約80%)、炭素:70㎏、窒素:11㎏。
★【菌体窒素】が 11㎏あることは、普通作物への窒素施肥量約 10㎏に匹敵する。
・『畑』⇒水が少ないため微小藻類、原生動物は少なく、大部分をカビ、そして細菌が占める。
★カビの細胞数と菌糸の長さを試算すると【10億個/g】【200^500m/g】にもなる。
『水田』⇒田面水に微小藻類、原生動物が多い。嫌気性の細菌が多く、酸素が必要なカビは激減。
◎「植物の根に共生する【微生物】」 ★Keyword=【菌根=ミコリザ】【可給態リン酸】 P102
多くの陸上植物の『根』は『菌類』と共生している。
この根を【菌根:mycorryhiza】、共生菌のことを【菌根菌:mycorrhizal fungus】いう。
◆【菌根=ミコリザ】:mycorryhiza
・『カビ』は乾燥にも強く菌糸を張り巡らすことで【リン】や水を『根』に供給する。植物の『根』は有機物を『カビ』に供給し【相利共生】の関係にある。菌糸を伸ばすことで、根の吸収できない範囲からも【リン】を捉え、植物へ供給することができる。
◆【菌根】の種類
◇【外生菌根】:ectomycorrhiza (主に担子菌や子嚢菌など高等なカビ)
・菌糸は根の表面に“とぐろ”を巻き、根の皮層の細胞の間に入るが、☆細胞中には入らない。
マツタケ・ホンシメジ・ハツタケなどが共生
◇【内生菌根】:endomycorrhiza (主に担子菌や子嚢菌など高等なカビ)
・菌糸は根の表面に“とぐろ”を巻くことなく、☆皮層細胞の中に入り込む。
ラン・ツツジ・リンドウなどと共生
◇【VA菌根】:Vesicular-Arbuscular Mycorrhiza (藻菌類と呼ばれる下等なカビ)
・水生植物、アブラナ科、タデ科、アカザ科、カヤツリグサ科以外のほとんどの植物と共生している。
・菌糸は根の表面に“とぐろ”を巻くことなく、根の皮層の細胞の間に入るが、☆細胞中には入らない。一部の菌糸は、細胞壁を押し込むようにして菌糸を分岐して【樹枝状態=Arbuscule】を形成する。また、一部の菌糸は、細胞間隙で【小胞体ーVesicle】を形成する。この2つの頭文字から【VA菌根】と呼ばれる。
・根から離れた場所の低濃度の【可給態リン酸】を捉え、菌糸を通し植物へ供給する。
★ほとんどの農作物と共生。【可給態リン酸】の少ない畑では【VA菌根菌】と共生することで、収穫が倍増することもある。
★土壌に木炭を砕き混ぜ込むと【VA菌根菌】が木炭の空隙に定着し菌糸を伸ばすので活性が高まる。
◆【根粒菌】 ★Keyword=【窒素固定】 P108
・マメ科植物の根に共生し、空気中の窒素分子を【アンモニア態窒素】として【窒素固定】をする細菌。【根粒菌】が『窒素』を、植物が『糖』を供給する共生関係にある。【窒素固定】するのは根と共生状態にある時だけで、単独では固定しない。
★【根粒菌】の種により共生できるマメ科の植物も異なる。
・【窒素固定】には多量の『酸素』が必要なため、土壌の通気性を良くすると活性が高まる。
・【窒素固定】には『リン酸』も不可欠なため【VA菌根菌】も併せて活用すると活性が高まる。
○【センチュウ(線虫)】 ★Keyword=【αーターチェニール】 P157
・土壌中に生息する植物寄生のセンチュウは、連作により増殖する。センチュウの加害により病原菌が伝播される被害も増えてくる。
・防除に利用されるのが【対抗植物】。センチュウ、病原菌を駆除する物質や忌避する物質を分泌し蔓延を防ぐ植物。『マリーゴールド』がよく知られ、殺センチュウ能力のある【αーターチェニール】を分泌する。フレンチ種の効果が高い。
★全てのセンチュウに対し万能ではないため、作物種とセンチュウの種を確認する必要がある。(組み合わせの一覧表が掲載されている P158)
★センチュウ防除には、寄生を受けない植物と組み合わせることで蔓延を防ぐ方法もある。
・『ラッカセイ』は、サツマイモに寄生する“サツマイモネコブセンチュウ”を減少させ、『サツマイモ』は、ラッカセイに寄生する“キタネグサレセンチュウ”を減少させるため、この2種の作物を交互に栽培することでセンチュウの抑制になる。
◎【地力窒素】 ★Keyword=【地力窒素】 P62
・普通作物は生育中に【窒素】約 10㎏/アールを吸収する。しかし、肥料として与えた【窒素】から吸収されるのは4~5㎏で、残りは土壌から無機化された【窒素】⇒これを【地力窒素】と呼ぶ。
・収穫後に残る作物遺体や残根、堆肥などの水溶性有機成分は、細菌やカビが摂り込み増殖する。その後、エサが枯渇すると死滅して、菌体から【窒素】が放出される。この【窒素】が無機化され作物へ摂り込まれる。
◇ 【地力窒素】を放出させる技
・「土壌を乾燥させる」「すりつぶす」「石灰をまく」「土壌消毒をする」などにより、菌の死滅を促進し無機化した【窒素】が作物に摂りこまれる。
★水田では、“荒起こし”により土壌を乾燥させてから水を張ると【地力窒素】放出が促進されイネに摂りこまれる。“代かき(しろかき)”により土壌がすりつぶされることでも菌が死滅し【地力窒素】の放出が促進される。
◎「【粘土鉱物】に吸着される微生物」 ★Keyword=【粘土鉱物】【緩衝能】 P178
・岩石を構成していた鉱物が風化により砕け、水に溶け、沈殿し新たな結晶をつくったのが【粘土鉱物】。(粒子の大きさ<0.2μ)
・一般に【粘土鉱物】の表面はマイナス、切り口の縁はプラスに帯電するため、表面に【陽イオン】の「水素」「塩基」、縁は【陰イオン】の「水酸イオン」が吸着する。表面積のほうが多いため、全体ではマイナスを帯び【陽イオン】吸着に優れる。
◇ 【陽イオン交換容量=CEC】
・【粘土鉱物】の表面に吸着した【陽イオン】が別の【陽イオン】と交換し水に溶けることができる。この交換して吸着できる【陽イオン】の総量を【CEC】と呼ぶ。【CEC】が高いと【塩基】の保持力が高く、保肥力に優れていることになる。
★【腐植】も【CEC】が高く、保肥力に優れている。
◇ 菌体の細胞壁の帯電
・プラスとマイナス両面があるが【pH】4~8では、マイナス部分が多く【粘土鉱物】の縁に吸着する。ここに「カルシウム」「鉄」など【陽イオン】があると【陽イオン】を橋渡しに多量の菌体が【粘土鉱物】の表面に吸着する。こうしてできた【菌体】と【粘土鉱物】の凝集が【団粒構造】形成につながる。
・【粘土鉱物】の表面は「水」が吸着されているため、【菌体】にも「水」が確保されることになり、菌も死滅しにくい。
★【粘土鉱物】は、多方面にわたり土壌の【緩衝能】を高める機能をもつ。
◆ ポイントひろい読み BEST 5 ◆
○「【微生物】のエネルギー摂取」 ★Keyword=【嫌気性細菌】 P12
◇ 酸素呼吸によるエネルギー獲得の効率化
・【嫌気性細菌】は、有機物を発酵することでエネルギーを獲得するが、『酸素呼吸』する生物は、酸素を使い有機物を分解しエネルギーを獲得する。『発酵』に比べ、酸素呼吸による分解は、『20倍』も効率的にエネルギーを獲得できる。
・【光合成微生物】の出現は、地球生命にとって画期となる。酸素を放出する【微生物】の出現が、生物の陸地進出を可能にした。
◇ 海洋と陸地で異なる【微生物】の役柄
・海の光合成量は【微生物】が主体となり、全地球の1/3~1/2もの量を占める。
★微生物は海洋では主に【生産者】
・陸の光合成の主体は植物で【微生物】は有機物を分解し無機物への物質循環役。
★微生物は陸地では主に【分解者】
◇ 陸上の植物の生長を支える【微生物】
・土壌中には、共存して植物の成長の一端を担う【微生物】が存在する。
○「【微生物】の基本構造」
◆ 「細菌の基本構造」P18
・細菌:0.5~10μ(ミクロン)=500~1,000nm(ナノメートル=1/10億メートル)
・藍藻<55μ、直径≒10μ
◇ 胞子を形成する細菌
・一部の細菌は胞子をつくる。環境条件が悪化すると防衛的に胞子を形成する(1個の細胞から1個の胞子)
・バチルス菌(納豆菌など)、クリストリジウム菌(破傷風菌など)に限られ、胞子は、100度の熱湯に耐え、乾燥状態で何年も耐えることができる。
◆ 「真核微生物の基本構造」P20
・原生動物、微小藻類、カビ(菌類)には“核”があり【真核生物】に分けられる。
・土壌中のカビは直径≒3~10μ、長さ:cm単位にも達する。
◎「代謝の早い【微生物】」P22
・生物の一法則『大きさと代謝活性の反比例』といわれるように【微生物】の代謝活性は高い。
◇ 呼吸活性-1
哺乳類の心臓と比較すると、カビ(2~10倍)/大腸菌(20~60倍)/アゾトバクター(約600倍)
◇ 呼吸活性-2 (乾物としたときの単位当たりの酸素吸収量:それぞれの指数として比べると微生物の活性の高さがわかる)
ヒト網膜(31)/ヒト心臓(5)/藍藻(1~10)/カビ(10~50)/酵母(50~100)/大腸菌(100~300)/アゾトバクター(3,000)
◇ 呼吸活性-3
チョウ(静止時:0.6/飛翔時:100)/マウス(静止時:2.5/疾走時:20)、
◇ 増殖速度
ブドウ状球菌(26分)/大腸菌(17分)/サッカロミセス:酵母(2時間)/ゾウリムシ(10.5時間)
○「無機物からエネルギーを摂り込む細菌」P29
◇ 2種類の【硝化菌】
・【アンモニア酸化細菌】:[アンモニウム ⇒ 亜硝酸] に変換しエネルギー獲得
・【亜硝酸酸化細菌】:[亜硝酸 ⇒ 硝酸] に変換しエネルギー獲得
★アンモニウムを硝酸に変換できる唯一の細菌
◇【硫黄酸化細菌】
・【好気的】条件下で、[硫黄、硫化物 ⇒ 硫酸] に変換しエネルギー獲得
★【嫌気的】条件下にあった土壌中の硫化物は、造成や干拓により【好気的】条件になると【硫黄酸化細菌】により硫酸を生成する。このため作物が作れなくなる。
◇【硫酸還元菌】
・【嫌気的】条件下で、[硫黄、硫酸 ⇒ 硫化水素] に変換しエネルギー獲得
◎「【根圏】の微生物」 ★Keyword=【根圏】 P91
・【根圏】で微生物の多いのは根の表面で、通常4~14%ほどが被覆されている。【根圏】以外の土壌粒子などの表面が被覆されているのは0.02%程度ほどしかなく【根圏】は500倍以上も被覆が高い。
・【根圏】以外の土壌は、重量比でカビ菌糸が細菌の3~4倍であるのに対し、【根圏】では細菌の重量が同等以上になる。
★連作すると【根圏】以外でのカビの密度が高くなり、【根圏】でもカビの菌糸重量のほうが増えることが多い。
・水分の多い【根圏】では【グラム陰性菌】の“桿菌”が多く、【根圏】以外では乾燥に強い【グラム陽性細菌】の“球菌”が多い。
◆ チェックポイント BEST 5 ◆
◎「施肥の種類により変わる【根圏】の【pH】」 ★Keyword=【硝酸態肥料】【アンモニア態肥料】 P101
◇ 【硝酸態肥料】硝酸カルシウム:Ca(NO3)2を施肥すると
根は、硝酸イオン【NO3-】を吸収して、重炭酸イオン【HCO3-】を放出する。【根圏】の水素イオン濃度が低下し【pH値】が上昇する。
・「コムギ立ち枯れ病」「ジャガイモそうか病」は、硝酸態窒素肥料で激化。
◇ 【アンモニア態肥料】硫安:(NH4)2SO4 を施肥すると
根は、アンモニウムイオン【NH4+】を吸収して、水素イオン【H+】を放出する。【根圏】の水素イオン濃度が上昇し【pH値】が低下する。
・キュウリ、スイカなどの「つる割病」、トマト、ゴボウの「フリザイム病」は、アンモニア態肥料で激化。
○【連作障害】 ★Keyword=【連作障害】 P130
・連作することで障害が発生するため、以前は「忌地(いやぢ)」とも言われた。原因がよくわからない時代には、植物が生成する有害物質を原因と考えられていたが、土壌伝染病が主要な原因であることがわかり【連作障害】と呼ばれるようになる。
・野菜の【連作障害】の多くは『カビ』。同じ作物であれば、残根や残渣で生き残った菌が、次の同種の作物に感染する。このサイクルが繰り返されることで、特定の病原菌が集積されることになる。
★水田では、冠水により嫌気的条件下に『カビ』が死滅するため【連作障害】は起こらない。
◎「土壌消毒の功罪」P147
【土壌消毒】は土壌病害をもたらす微生物とともに、有益な微生物も死滅してしまう。
・マイナス面 ⇒【硝化菌】は死滅しやすく、施肥のアンモニウムが硝酸に変換されないため作物に障害を起こす。
・マイナス面 ⇒消毒後に増殖の速い菌が優先し土壌中の菌の種が単純化するため、不安定な土壌になる。
・プラス面 ⇒ 死滅した菌や有機物から【窒素】放出が促進され作物の生育を促進する。
★繰り返し【土壌消毒】すると、有機物の分解が促進されて土壌中の貯蓄量が減り土壌は硬くなる。
◎【アロフェン】 ★Keyword=【アロフェン】【アルミナ】 P180
・北海道、東北、関東、南九州の火山灰土に含まれる。0.05μの中空構造で「アルミナ:酸化アルミニウム」と「ケイ酸」からなる結晶性の乏しい【粘土鉱物】。
・【アロフェン】全体はマイナスの帯電するため【CEC】が高いが、表面の「アルミニウム」が「リン酸」と結合しやすく、植物や微生物が利用ができなくなる。
・火山灰土の【黒ボク】は多量の「リン酸」を吸着しているが、作物が利用できないため「リン酸」欠乏により生産性が低い。
・【アロフェン】や遊離した【アルミナ】は「リン酸」「有機物」を吸着させるため【微生物】の分解を遅らせ、土壌を酸性化する。
・非火山性の【黒ボク土】には【アロフェン】は含まれないが活性【アルミナ】が多い。
◎【土壌破壊】★Keyword=【土壌破壊】 P195
◇ 有機物の土壌への還元が減少する食糧増産
・アフリカなどの乾燥地はもともと生物生産量は少ないが、食糧増産のため放牧量を増やし木を伐採している。有機物として収穫が増加するが、土壌への還元量は減少する。土壌を凝縮させていた有機物が減少すれば、土壌は【団粒構造】を保持できなくなりばらばらになる。そして“風食”され砂漠化しやすくなる。
・灌漑による作物生産は、塩類が溶け出して地表に集積し、砂漠化が促進されることになる。
・アメリカの穀物生産地帯でも、土壌面の被覆が低下することで“水食”が深刻化している。
『土壌を管理するとは、農業生態系全体を上手に管理することによってのみ可能となるのである』と著者。
bookbookbook 『読み込んだ一冊』 bookbookbook
かれこれ20年も持ち続け、ことあるごとに読む本がある。
何か感動した本、使いやすい本、便利な本、こんな本は使い込むほど馴染んでくる。
今回の『土壌微生物の基礎知識』もそのなかの一冊。
もう何年か前から、背表紙の糊がはがれ、ページがバラバラしてきている。
新しく買い直そうかとも思うが、付箋やメモの書き込みがあるためやはり使い古した本のほうが使いやすい。
ここまで付き合う本となると、そっと優しく扱い、またそっともとの定位置へ戻すことになる。
読んだ当時の印象や、何を調べたのかなど、いろいろな記憶も一緒に畳まれているようでますます手放せなくなる。
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土壌の知識となると、馴染みにくく小難しい感じがするが、読みやすく端的にまとめられ重宝な一冊。イラスト、表なども多く解りやすい。何よりも見開ページごとにテーマ別になっているところが一番のポイント。私にとっても土壌関係は、取っ付き難い分野。しかしこの一冊は、かなり役立った。というより助けてもらった。土壌知識の糸口をつかめたテキスト的存在として今も書棚に並んでいる。
発行からからかなり時間が経つが、いまだに読み返す便利な辞典のような存在。菌根菌などは今ではよく知られてきているが、発行当時は“目から鱗”の解説だったことを思い出す。
今ではまり見かけない水田の“荒起こし”“代かき(しろかき)”により土壌中の菌が死滅し【窒素】の放出が促進されイネに摂り込まれることなどは、古来からの知恵があり、なるほどとよく理解できる。
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『土壌微生物の基礎知識』 西尾道徳(にしお・みちのり)著 1989.02.25. 第一刷 社団法人 農山漁村文化協会 ★★★☆☆ 難易度 ★★★★☆ 蘊蓄度 ★★★★★ お勧め指数 ★★★★★ 保存版 ★★★★★ 編集、構成 ★★★★★ 総合評価 |
◆ 感銘・共感・知見の一文 ◆
◎「【土壌微生物】の存在量」 ★Keyword=【菌体窒素】 P24
・普通の畑の土壌生物量:平均 700㎏/アール(カビ:70~75%、細菌:20~25%、土壌動物<5%)。700㎏の内訳は、水分:560㎏(約80%)、炭素:70㎏、窒素:11㎏。
★【菌体窒素】が 11㎏あることは、普通作物への窒素施肥量約 10㎏に匹敵する。
・『畑』⇒水が少ないため微小藻類、原生動物は少なく、大部分をカビ、そして細菌が占める。
★カビの細胞数と菌糸の長さを試算すると【10億個/g】【200^500m/g】にもなる。
『水田』⇒田面水に微小藻類、原生動物が多い。嫌気性の細菌が多く、酸素が必要なカビは激減。
◎「植物の根に共生する【微生物】」 ★Keyword=【菌根=ミコリザ】【可給態リン酸】 P102
多くの陸上植物の『根』は『菌類』と共生している。
この根を【菌根:mycorryhiza】、共生菌のことを【菌根菌:mycorrhizal fungus】いう。
◆【菌根=ミコリザ】:mycorryhiza
・『カビ』は乾燥にも強く菌糸を張り巡らすことで【リン】や水を『根』に供給する。植物の『根』は有機物を『カビ』に供給し【相利共生】の関係にある。菌糸を伸ばすことで、根の吸収できない範囲からも【リン】を捉え、植物へ供給することができる。
◆【菌根】の種類
◇【外生菌根】:ectomycorrhiza (主に担子菌や子嚢菌など高等なカビ)
・菌糸は根の表面に“とぐろ”を巻き、根の皮層の細胞の間に入るが、☆細胞中には入らない。
マツタケ・ホンシメジ・ハツタケなどが共生
◇【内生菌根】:endomycorrhiza (主に担子菌や子嚢菌など高等なカビ)
・菌糸は根の表面に“とぐろ”を巻くことなく、☆皮層細胞の中に入り込む。
ラン・ツツジ・リンドウなどと共生
◇【VA菌根】:Vesicular-Arbuscular Mycorrhiza (藻菌類と呼ばれる下等なカビ)
・水生植物、アブラナ科、タデ科、アカザ科、カヤツリグサ科以外のほとんどの植物と共生している。
・菌糸は根の表面に“とぐろ”を巻くことなく、根の皮層の細胞の間に入るが、☆細胞中には入らない。一部の菌糸は、細胞壁を押し込むようにして菌糸を分岐して【樹枝状態=Arbuscule】を形成する。また、一部の菌糸は、細胞間隙で【小胞体ーVesicle】を形成する。この2つの頭文字から【VA菌根】と呼ばれる。
・根から離れた場所の低濃度の【可給態リン酸】を捉え、菌糸を通し植物へ供給する。
★ほとんどの農作物と共生。【可給態リン酸】の少ない畑では【VA菌根菌】と共生することで、収穫が倍増することもある。
★土壌に木炭を砕き混ぜ込むと【VA菌根菌】が木炭の空隙に定着し菌糸を伸ばすので活性が高まる。
◆【根粒菌】 ★Keyword=【窒素固定】 P108
・マメ科植物の根に共生し、空気中の窒素分子を【アンモニア態窒素】として【窒素固定】をする細菌。【根粒菌】が『窒素』を、植物が『糖』を供給する共生関係にある。【窒素固定】するのは根と共生状態にある時だけで、単独では固定しない。
★【根粒菌】の種により共生できるマメ科の植物も異なる。
・【窒素固定】には多量の『酸素』が必要なため、土壌の通気性を良くすると活性が高まる。
・【窒素固定】には『リン酸』も不可欠なため【VA菌根菌】も併せて活用すると活性が高まる。
○【センチュウ(線虫)】 ★Keyword=【αーターチェニール】 P157
・土壌中に生息する植物寄生のセンチュウは、連作により増殖する。センチュウの加害により病原菌が伝播される被害も増えてくる。
・防除に利用されるのが【対抗植物】。センチュウ、病原菌を駆除する物質や忌避する物質を分泌し蔓延を防ぐ植物。『マリーゴールド』がよく知られ、殺センチュウ能力のある【αーターチェニール】を分泌する。フレンチ種の効果が高い。
★全てのセンチュウに対し万能ではないため、作物種とセンチュウの種を確認する必要がある。(組み合わせの一覧表が掲載されている P158)
★センチュウ防除には、寄生を受けない植物と組み合わせることで蔓延を防ぐ方法もある。
・『ラッカセイ』は、サツマイモに寄生する“サツマイモネコブセンチュウ”を減少させ、『サツマイモ』は、ラッカセイに寄生する“キタネグサレセンチュウ”を減少させるため、この2種の作物を交互に栽培することでセンチュウの抑制になる。
◎【地力窒素】 ★Keyword=【地力窒素】 P62
・普通作物は生育中に【窒素】約 10㎏/アールを吸収する。しかし、肥料として与えた【窒素】から吸収されるのは4~5㎏で、残りは土壌から無機化された【窒素】⇒これを【地力窒素】と呼ぶ。
・収穫後に残る作物遺体や残根、堆肥などの水溶性有機成分は、細菌やカビが摂り込み増殖する。その後、エサが枯渇すると死滅して、菌体から【窒素】が放出される。この【窒素】が無機化され作物へ摂り込まれる。
◇ 【地力窒素】を放出させる技
・「土壌を乾燥させる」「すりつぶす」「石灰をまく」「土壌消毒をする」などにより、菌の死滅を促進し無機化した【窒素】が作物に摂りこまれる。
★水田では、“荒起こし”により土壌を乾燥させてから水を張ると【地力窒素】放出が促進されイネに摂りこまれる。“代かき(しろかき)”により土壌がすりつぶされることでも菌が死滅し【地力窒素】の放出が促進される。
◎「【粘土鉱物】に吸着される微生物」 ★Keyword=【粘土鉱物】【緩衝能】 P178
・岩石を構成していた鉱物が風化により砕け、水に溶け、沈殿し新たな結晶をつくったのが【粘土鉱物】。(粒子の大きさ<0.2μ)
・一般に【粘土鉱物】の表面はマイナス、切り口の縁はプラスに帯電するため、表面に【陽イオン】の「水素」「塩基」、縁は【陰イオン】の「水酸イオン」が吸着する。表面積のほうが多いため、全体ではマイナスを帯び【陽イオン】吸着に優れる。
◇ 【陽イオン交換容量=CEC】
・【粘土鉱物】の表面に吸着した【陽イオン】が別の【陽イオン】と交換し水に溶けることができる。この交換して吸着できる【陽イオン】の総量を【CEC】と呼ぶ。【CEC】が高いと【塩基】の保持力が高く、保肥力に優れていることになる。
★【腐植】も【CEC】が高く、保肥力に優れている。
◇ 菌体の細胞壁の帯電
・プラスとマイナス両面があるが【pH】4~8では、マイナス部分が多く【粘土鉱物】の縁に吸着する。ここに「カルシウム」「鉄」など【陽イオン】があると【陽イオン】を橋渡しに多量の菌体が【粘土鉱物】の表面に吸着する。こうしてできた【菌体】と【粘土鉱物】の凝集が【団粒構造】形成につながる。
・【粘土鉱物】の表面は「水」が吸着されているため、【菌体】にも「水」が確保されることになり、菌も死滅しにくい。
★【粘土鉱物】は、多方面にわたり土壌の【緩衝能】を高める機能をもつ。
◆ ポイントひろい読み BEST 5 ◆
○「【微生物】のエネルギー摂取」 ★Keyword=【嫌気性細菌】 P12
◇ 酸素呼吸によるエネルギー獲得の効率化
・【嫌気性細菌】は、有機物を発酵することでエネルギーを獲得するが、『酸素呼吸』する生物は、酸素を使い有機物を分解しエネルギーを獲得する。『発酵』に比べ、酸素呼吸による分解は、『20倍』も効率的にエネルギーを獲得できる。
・【光合成微生物】の出現は、地球生命にとって画期となる。酸素を放出する【微生物】の出現が、生物の陸地進出を可能にした。
◇ 海洋と陸地で異なる【微生物】の役柄
・海の光合成量は【微生物】が主体となり、全地球の1/3~1/2もの量を占める。
★微生物は海洋では主に【生産者】
・陸の光合成の主体は植物で【微生物】は有機物を分解し無機物への物質循環役。
★微生物は陸地では主に【分解者】
◇ 陸上の植物の生長を支える【微生物】
・土壌中には、共存して植物の成長の一端を担う【微生物】が存在する。
○「【微生物】の基本構造」
◆ 「細菌の基本構造」P18
・細菌:0.5~10μ(ミクロン)=500~1,000nm(ナノメートル=1/10億メートル)
・藍藻<55μ、直径≒10μ
◇ 胞子を形成する細菌
・一部の細菌は胞子をつくる。環境条件が悪化すると防衛的に胞子を形成する(1個の細胞から1個の胞子)
・バチルス菌(納豆菌など)、クリストリジウム菌(破傷風菌など)に限られ、胞子は、100度の熱湯に耐え、乾燥状態で何年も耐えることができる。
◆ 「真核微生物の基本構造」P20
・原生動物、微小藻類、カビ(菌類)には“核”があり【真核生物】に分けられる。
・土壌中のカビは直径≒3~10μ、長さ:cm単位にも達する。
◎「代謝の早い【微生物】」P22
・生物の一法則『大きさと代謝活性の反比例』といわれるように【微生物】の代謝活性は高い。
◇ 呼吸活性-1
哺乳類の心臓と比較すると、カビ(2~10倍)/大腸菌(20~60倍)/アゾトバクター(約600倍)
◇ 呼吸活性-2 (乾物としたときの単位当たりの酸素吸収量:それぞれの指数として比べると微生物の活性の高さがわかる)
ヒト網膜(31)/ヒト心臓(5)/藍藻(1~10)/カビ(10~50)/酵母(50~100)/大腸菌(100~300)/アゾトバクター(3,000)
◇ 呼吸活性-3
チョウ(静止時:0.6/飛翔時:100)/マウス(静止時:2.5/疾走時:20)、
◇ 増殖速度
ブドウ状球菌(26分)/大腸菌(17分)/サッカロミセス:酵母(2時間)/ゾウリムシ(10.5時間)
○「無機物からエネルギーを摂り込む細菌」P29
◇ 2種類の【硝化菌】
・【アンモニア酸化細菌】:[アンモニウム ⇒ 亜硝酸] に変換しエネルギー獲得
・【亜硝酸酸化細菌】:[亜硝酸 ⇒ 硝酸] に変換しエネルギー獲得
★アンモニウムを硝酸に変換できる唯一の細菌
◇【硫黄酸化細菌】
・【好気的】条件下で、[硫黄、硫化物 ⇒ 硫酸] に変換しエネルギー獲得
★【嫌気的】条件下にあった土壌中の硫化物は、造成や干拓により【好気的】条件になると【硫黄酸化細菌】により硫酸を生成する。このため作物が作れなくなる。
◇【硫酸還元菌】
・【嫌気的】条件下で、[硫黄、硫酸 ⇒ 硫化水素] に変換しエネルギー獲得
◎「【根圏】の微生物」 ★Keyword=【根圏】 P91
・【根圏】で微生物の多いのは根の表面で、通常4~14%ほどが被覆されている。【根圏】以外の土壌粒子などの表面が被覆されているのは0.02%程度ほどしかなく【根圏】は500倍以上も被覆が高い。
・【根圏】以外の土壌は、重量比でカビ菌糸が細菌の3~4倍であるのに対し、【根圏】では細菌の重量が同等以上になる。
★連作すると【根圏】以外でのカビの密度が高くなり、【根圏】でもカビの菌糸重量のほうが増えることが多い。
・水分の多い【根圏】では【グラム陰性菌】の“桿菌”が多く、【根圏】以外では乾燥に強い【グラム陽性細菌】の“球菌”が多い。
◆ チェックポイント BEST 5 ◆
◎「施肥の種類により変わる【根圏】の【pH】」 ★Keyword=【硝酸態肥料】【アンモニア態肥料】 P101
◇ 【硝酸態肥料】硝酸カルシウム:Ca(NO3)2を施肥すると
根は、硝酸イオン【NO3-】を吸収して、重炭酸イオン【HCO3-】を放出する。【根圏】の水素イオン濃度が低下し【pH値】が上昇する。
・「コムギ立ち枯れ病」「ジャガイモそうか病」は、硝酸態窒素肥料で激化。
◇ 【アンモニア態肥料】硫安:(NH4)2SO4 を施肥すると
根は、アンモニウムイオン【NH4+】を吸収して、水素イオン【H+】を放出する。【根圏】の水素イオン濃度が上昇し【pH値】が低下する。
・キュウリ、スイカなどの「つる割病」、トマト、ゴボウの「フリザイム病」は、アンモニア態肥料で激化。
○【連作障害】 ★Keyword=【連作障害】 P130
・連作することで障害が発生するため、以前は「忌地(いやぢ)」とも言われた。原因がよくわからない時代には、植物が生成する有害物質を原因と考えられていたが、土壌伝染病が主要な原因であることがわかり【連作障害】と呼ばれるようになる。
・野菜の【連作障害】の多くは『カビ』。同じ作物であれば、残根や残渣で生き残った菌が、次の同種の作物に感染する。このサイクルが繰り返されることで、特定の病原菌が集積されることになる。
★水田では、冠水により嫌気的条件下に『カビ』が死滅するため【連作障害】は起こらない。
◎「土壌消毒の功罪」P147
【土壌消毒】は土壌病害をもたらす微生物とともに、有益な微生物も死滅してしまう。
・マイナス面 ⇒【硝化菌】は死滅しやすく、施肥のアンモニウムが硝酸に変換されないため作物に障害を起こす。
・マイナス面 ⇒消毒後に増殖の速い菌が優先し土壌中の菌の種が単純化するため、不安定な土壌になる。
・プラス面 ⇒ 死滅した菌や有機物から【窒素】放出が促進され作物の生育を促進する。
★繰り返し【土壌消毒】すると、有機物の分解が促進されて土壌中の貯蓄量が減り土壌は硬くなる。
◎【アロフェン】 ★Keyword=【アロフェン】【アルミナ】 P180
・北海道、東北、関東、南九州の火山灰土に含まれる。0.05μの中空構造で「アルミナ:酸化アルミニウム」と「ケイ酸」からなる結晶性の乏しい【粘土鉱物】。
・【アロフェン】全体はマイナスの帯電するため【CEC】が高いが、表面の「アルミニウム」が「リン酸」と結合しやすく、植物や微生物が利用ができなくなる。
・火山灰土の【黒ボク】は多量の「リン酸」を吸着しているが、作物が利用できないため「リン酸」欠乏により生産性が低い。
・【アロフェン】や遊離した【アルミナ】は「リン酸」「有機物」を吸着させるため【微生物】の分解を遅らせ、土壌を酸性化する。
・非火山性の【黒ボク土】には【アロフェン】は含まれないが活性【アルミナ】が多い。
◎【土壌破壊】★Keyword=【土壌破壊】 P195
◇ 有機物の土壌への還元が減少する食糧増産
・アフリカなどの乾燥地はもともと生物生産量は少ないが、食糧増産のため放牧量を増やし木を伐採している。有機物として収穫が増加するが、土壌への還元量は減少する。土壌を凝縮させていた有機物が減少すれば、土壌は【団粒構造】を保持できなくなりばらばらになる。そして“風食”され砂漠化しやすくなる。
・灌漑による作物生産は、塩類が溶け出して地表に集積し、砂漠化が促進されることになる。
・アメリカの穀物生産地帯でも、土壌面の被覆が低下することで“水食”が深刻化している。
『土壌を管理するとは、農業生態系全体を上手に管理することによってのみ可能となるのである』と著者。
bookbookbook 『読み込んだ一冊』 bookbookbook
かれこれ20年も持ち続け、ことあるごとに読む本がある。
何か感動した本、使いやすい本、便利な本、こんな本は使い込むほど馴染んでくる。
今回の『土壌微生物の基礎知識』もそのなかの一冊。
もう何年か前から、背表紙の糊がはがれ、ページがバラバラしてきている。
新しく買い直そうかとも思うが、付箋やメモの書き込みがあるためやはり使い古した本のほうが使いやすい。
ここまで付き合う本となると、そっと優しく扱い、またそっともとの定位置へ戻すことになる。
読んだ当時の印象や、何を調べたのかなど、いろいろな記憶も一緒に畳まれているようでますます手放せなくなる。
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